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線䞊の子どもたち by 枩又柔



線䞊の子どもたち

枩又柔







 海の䞊には線がある。その線を跚ぐず、日本は台湟になり台湟は日本になる。飛行機ではい぀も、目を凝らした。父の囜ず母の囜を隔おる線を芋おみたかったのだ。



 倧人になる前に気が぀いた。そんな線はない。たずえ、あるずしおも地図の䞊だけのこず。その頃には、気持ちが決たっおいた。もっずきちんず母の囜の蚀葉を身に぀けよう。私ずきたら、だめでしょ、聞きなさい、おりこうさん  母芪が、幌児を叱ったり、なだめたり、あやすずきの䞭囜語しか知らなかったのだ。䞍行、聜話、奜乖  それきりだった私の䞭囜語はみるみる䞊達した。半幎埌には䞊海に枡るほどだった。


留孊初日、あたしは南の生たれなの、ず自己玹介する女の子がいた。


沖瞄出身の圌女ず台湟生たれの私は、行く先々で姉効にたちがわれた。確かに私たちは䌌おいる。背䞈ず䜓぀き、笑うず䞉日月みたいに现くなる目  そしお名前。



 明里ず悠里。


 留孊䞭は、アカリずナりリではなくミンリヌずペりリヌず䞭囜語颚に呌ばれおいた。



もう十幎か、ず受話噚の向こうで悠里が嘆く。现圚快芁䞉十歲了


 ただ十幎よ、ず私は蚀う。我们还埈幎蜻

 盞倉わらずのミンリヌ節ね、ず悠里は笑い、ほんずに迎えはいいの ず蚊く。

――倧䞈倫。メむリちゃんずのんびり埅っおおよ。

助かる、ずいう声に笑いが滲む。迷子になったらすぐ電話しおね。迷子になったずしおも、日本語が通じる、ず思うので私は気楜だった。䜕しろこの旅にはパスポヌトも必芁ない。


 雚あがりの沖瞄は倪陜の匂いがした。雲間から掩れる光が眩しい。ブヌゲンビリアが揺れおいる。路地の入口で立ちどたる。肌をくすぐる颚の感觊ず光を撥ねながら繁る暹々の色に、ほのかな土の匂い。次の角を曲がるず、母の生家がひょっこり珟れそうだ。颚にあおられる花々を芋぀めるうちに、生たれお初めお迷子になったずきの蚘憶が蘇る。


二床ず家に垰れないかもしれない、ず想像しお身を震わす私の頭䞊で、声たちが飛び亀う。チレ・ギンナ・カナ・シ・リップンラン  芪切で気の奜い倧人たちが自分に぀いお話しおいるのはわかったが、圌らの蚀葉で私に理解できるのはリップンずギンナヌの二蚀のみ。

 ――お嬢さん、日本から来たしたか


自分の知っおいる蚀葉が聞こえおきお、やっず私は泣きやむ。祖母ず同幎代の婊人から、お名前は䜕ずいいたすか、ず蚊かれ、アカリ、ず答えた。私をずり囲んでいた倧人たちの間に安堵が広がる。


 䞭囜語ができるようになったあずも、リップンずギンナヌ、それからティアヌボヌぐらいしか私は台湟語を知らなかった。


日本、子ども、わかりたせん。


雲が途切れお光がさらに明るくなる。ミンリヌ、ず声がする。路地の先に、赀ちゃんを抱いた悠里の姿があった。


 ――女の子なら、明るい里ず曞いおメむリにしようず思っおるのよ。圌が提案したの。がくらの嚘にずっおこれ以䞊玠晎らしい名前はないっお。



 悠里は照れながら、アカリだずそのたただからね、ず蚀い添える。その倜、私は、父の囜に最も近い日本で育った女の子ず友だちになる倢を芋た。倢の䞭の私ずメむリちゃんはどちらも十歳になったばかり。台湟語を囁きあっおいた。


めんそヌれ、ず私を迎える悠里の目が䞉日月になる。


「ハゞメマシテ、それずも、初次芋面」


 赀ん坊にそう話しかける私を悠里が可笑しがる。


「圌ずね、明里のお父さんずお母さんは䜕語で育おたんだろうっお蚀っおたのよ」

「知っおるでしょ。あたしは幌児が話すような䞭囜語しか知らなかったんだから」

「あ、おがえおる。奜乖、でしょ」


その途端、アッ、ず声がする。私たちは顔を芋合わせる。あらあら明里にお返事したの 小さな唇を愛おしそうに悠里は突く。ふふふ䜕語でお返事しおくれたの 明里、の代わりに、泰進ず名づけられた男の子の顔を私ものぞきこむ。


 ――父芪から䞀文字ずったのよ。

 呚賢進ず出䌚ったのも䞊海だった。


日本人 そう蚊かれお、半分だけ、ず答えた。半分 呚賢進は人の奜さそうな笑みを浮かべお続ける。がくは台湟から来たんだ。私は蚀う。あら、あたしの半分もそこから来たのよ。



――我从台湟来的。

がくは台湟から来たんだ。



――唉、我的䞀半也是从哪里来的。

あら、あたしの半分もそこから来たのよ。



あのずきの呚賢進は、い぀か自分が、日本、それも台湟に最も近い沖瞄で暮らすようになるずは思いもしなかったはずだ。


「呚くんの日本語、ずいぶん䞊達したでしょ」


「あたしもなけなしの䞭囜語を忘れたくないから、あっちは日本語を喋っおこっちは䞭囜語で返すっおいう状態が続いおる。泰進の蚀葉はどうなっちゃうんだろう」

 そう蚀っお悠里は笑う。


「そしたらあたしは、台湟語で話しかけようかな」

「え」

「䌚瀟蟞めたの。来月から台湟に行く。十幎ぶりの留孊よ」


泰進を抱く悠里の向こうに䞀筋の飛行機雲が芋えた。埅ち遠しい、ずいう感情が蟌みあげおくる。新しい私の友だちず、泰進ず、早く蚀葉を亀わしおみたい。



了


枩又柔



『十幎埌のこず』2016幎河出曞房新瀟、収録䜜品 曞誌情報はこちら

※枩又柔さんから「HAFU TALK」のために特別に今回この䜜品を掲茉させお頂くこずずなりたした。







枩又柔さん

〈プロフィヌル〉

幎、台湟・台北生たれ。歳のずきから台湟人の䞡芪ずずもに東京で暮らす。䞡芪や芪戚たちが話しおいた䞭囜語や台湟語を織り蟌んだ「ニホン語」で小説・゚ッセむ等を執筆する。今埌も、「どちらでもなく、どちらでもある」ずいう立堎から、自分ではないだれかず今ここにいる喜びを分かち合うこずをテヌマに曞き続けたいず望んでいる。

著曞に、『来犏の家』癜氎ブックス、『台湟生たれ 日本語育ち』癜氎瀟、『真ん䞭の子どもたち』集英瀟。最新刊は『空枯時光』河出曞房新瀟。



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