「ハーフ」のドラマトゥルギーのために ――ソーシャルメディア,「労働」,ジェンダー秩序――
ケイン樹里安 2018 『市大社会学』(通巻15号)大阪市立大学 社会学研究会
[要旨]
現代日本社会において,時に問題状況に直面するハーフと呼ばれる人々の日常を
いかに分析することができるだろうか.本稿は,上記の問いに答えるべく,ゴフマ
ンのドラマトゥルギー理論の援用を試みながら,ソーシャルメディアを介すること
で,対面・非対面の状況で構成されるハーフの日常を具体的に描くための理論的・
方法論的立場を探究することが目的である.そのために,ソーシャルメディアを介
したあらゆる実践は「労働」であるという批判的視点をもつこと,そして,そのさ
なかで生起するジェンダー秩序を描くこと,という2 つの問題提起を行う.
「ハーフ」の技芸と社会的身体 ——SNSを介した「出会い」の場を事例に——
ケイン樹里安 2017 『年報カルチュラル・スタディーズ』 (5) 163-184 カルチュラル・スタディーズ学会
【要旨】
近年、着実に多文化社会へと移行しつつある日本社会において、「ハーフ」と呼ばれる人々への社会的関心が増大している。呼応するように、特定のルーツおよびルートをもつ「ハーフ」が直面する諸問題や支配的なメディア表象の変遷に着目した研究が登場しつつある。だが、いずれも端緒についたばかりであり、より経験的な水準で、「ハーフ」が直面する問題状況やメディア表象と関係と切り結ぶ日常的な実践に照準した研究が求められている。そこで、本稿では、すぐれて現代的な現象であるSNSを介した「ハーフ」たちの「出会い」の場に着目し、多様なルーツ/ルートをもつ「ハーフ」たちが織り上げる相互行為秩序の様態に迫ることで、上述の課題に部分的に応えることを目的とする。具体的には、SNSを介した「出会い」の場において、しばしば見受けられる「生きづらさ」を「笑い飛ばす」実践とその実践をめぐって生起する成員の序列化と排除という出来事を中心的に取り上げ、M.セルトーの「技芸をなすことArt de Faire」概念を手がかりとして考察を行う。一見すると、相互行為秩序の規範をめぐる普遍的な出来事であり、いかにも現代的な若者文化らしい特徴を備えた振る舞いだとして素朴に解釈され、見過ごされかねないほどきわめて「平凡」な振る舞いが、実際にはマイノリティの社会的身体に密接に関連した緊張をはらんだ技芸にほかならないことを示す。現代日本社会において生起する多文化状況における、コンヴィヴィアリティのありようを批判的に探索するためには、マイノリティの技芸とそれがもたらす序列化と排除の機制に照準した経験的研究の蓄積が必要であることを、本稿を通して示唆したい。