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【コラム】謎のコピペ・アカウントと「対話の裂け目」 byケイン樹里安







みなさま、おひさしぶりです。


HAFU TALKメンバーのじゅりあんです。


前回のコラムは、「当事者マウンティング」という言葉が「横滑りをする」「奪われる」可能性と不安について述べました。


この言葉をつくられた磯野さんご本人を含め、多くの方々からお返事をいただきました。

ちょっとまだ整理しきれてはいないのですが、改めて、どのように考えることができるのかについて、まとめたいと思います(前回のコラムの「先」を考える手がかりは「当事者と向き合う状況」をそれぞれがイメージする際のズレにあるのでは、と考えています)。




さて、今回のコラムは「対話」とその「裂け目」がテーマです。


いつもとは少しちがう角度から書いてみます。


ところで、HAFU TALK(ハーフトーク)のハーフという言葉には2つの意味合いを込めています。

1つは、「ハーフ」といった海外ルーツを指すカテゴリーの「ややこしさ」、そして身の回りの人々を含めて「振り回される」日常生活を、「お題」として考える、という意味です。

そして、2つ目は、「半歩からの対話」の「半」という意味合いです。


いきなりグイッと1歩進んで対話するのは時に難しい。

「だからこそ、まずは、半歩から」。そのようなニュアンスです。



とても気になっていることがあります。



オンライン上で今回の沖縄知事選のことをいろいろ検索している時に「対話している風の何か」を目撃したからです。


今回の沖縄知事選に、米軍に所属していた父親と、日本人の母をもつ玉城デニーさんという方が出馬されます。


急逝された翁長さんの「イデオロギーではなくアイデンティティ」という言葉に象徴されるように、今回の知事選は、おそらく、「いかに沖縄の人々が沖縄のことを自己決定していくのか、どのような沖縄の姿を自らの手で描いていくのか」という、沖縄のアイデンティティのありかたを、沖縄の人々自身が問い返しながら描く大変重要なタイミングなのだろうと思います。


なぜ、沖縄県民ではない僕が沖縄知事選に注目するのか、といぶかしがられる方もおられるかもしれません。

理由はたくさんあるのですが、あえて1つだけ述べれば、沖縄のアイデンティティが問われる際に、米軍に所属していた父親と、日本人の母をもつ玉城デニーさんという方が出馬されるという状況があるからです。


玉城デニーさんが「オール沖縄」と言ったとき、そのオールに複数のルーツをもつ人々もしっかり含まれていることが、より鮮明になるでしょう。そのことは、沖縄に限らず、全国各地の複数のルーツをもつ人々と子どもにとって、社会と自分との関わりかたを考え、思い描く時に、大きな意味をもちます。


玉城デニーさん自身が選挙期間中に、どのような自らと沖縄のアイデンティティについて語り、そして、まわりの人々がどのような言葉を彼に投げかけるのか、マスメディアやソーシャルメディア上で、どのような言葉が行きかうのか、という部分に大変強い関心をもっています。


ただし、ここ数日、僕が最も注目している点は、実は選挙の争点や必要とされる政策、スローガンのニュアンスではありません。


実は、僕が気になっているのは、Twitterで発見したある一群の謎のアカウントなのです。

実は、8月23日に以下のような投稿をTwitter上で行いました。



























「1度消したのですが改めて。

昨晩「玉城デニー氏、出馬表明先送り。・・そうなんだ。」とつぶやくアカウントを複数発見。個々のアカウントは数年前に誕生したぽい。投稿は、産経、ロイター、毎日、ニッカンサッカー等の見出しをコピペして顔文字や一言を沿えるだけ。選挙対策用ではなさそうだが謎すぎる」



何を思ってつぶやいているのかといいますと、8月22日の深夜に沖縄知事選について調べものをしているときに、偶然「玉城デニー氏、出馬表明先送り。・・そうなんだ。」といった言葉を一言一句違わずつぶやく――つまりコピー&ペーストをしている――アカウントを複数見つけたのです。


つぶやいている時間も絶妙にズレていますが、見事に文言はコピペされたものばかり。


「出馬先送り」という文言自体は、産経新聞グループのニュースサイト「産経ニュース」の公式Twitterで8月22日の14時42分に投稿された記事の見出しであることがすぐにわかりました。謎のアカウントはこの見出しをコピーしたうえで、「・・そうなんだ」という何気ない文章を加えたことがわかります。


思わず「デニーさん陣営ではない誰かが選挙対策のTwitterアカウントを作成したのかな。それとも、どこかから発注を受けたバイト君が運営しているのかな」などと思いました。

そして、その旨を僕は1度深夜のうちにツイートしました(大変軽率でした笑)。


ただ、すぐに気が付いたのですが、謎のコピペ・アカウントたちをよく見ると、どうも選挙対策用というわけではなさそうです。


ということで、深夜のうちに自分のツイートを1度消し、もう少しじっくり向き合うことにしました(上記に挙げたツイートは、翌日に改めて投稿したものです)。


「選挙対策用ではなさそう」と判断した理由は、まず、上記の謎アカウントたちが作成されたのが2012年や2014年だったことです。さすがに数年前から今回の知事選を見越していたとは考えづらいので、少なくとも、今回の沖縄知事選の選挙対策用アカウントとして急ごしらえで作成されたものとはいえません。



ちなみに、投稿内容は非常に特徴的です。



























「ほんと謎

・コピペされてる見出しは政治系に限らない

・記事へのURLがない

・いっせいにつぶやいてるわけでもない

・個々のアカウントでコピペする記事が微妙に差異化されてる

・一部しか見てないのだけど、フォローしてるのもフォロワーの投稿も「ニュースサイトの引用一言」系という印象」




改めて整理します。



謎のアカウントたちの投稿内容は、アカウントごとに微妙にそれぞれちがっていました。


共通点は「玉城デニー氏、出馬表明先送り。・・そうなんだ」という投稿をしていることで、その投稿の前後には、りゅうちぇるのタトゥー、サッカー選手の動向、昭和天皇の戦争責任など、アカウントごとに投稿内容の傾向は異なりますが、さまざまなことに関するツイートがされていました。


ほかの投稿内容についてそれぞれ検索すると、ロイターやニッカンサッカー、毎日新聞などが運営するニュースサイトの見出しをコピペしたものばかりであることがわかりました。

徹頭徹尾、コピペのアカウントたち。


そして、特徴的な点は、


「玉城デニー氏、出馬表明先送り。・・そうなんだ」の「そうなんだ」のように、コピペした記事の見出しにプラスして「何気ない感想」風の一言や「…だって!」というような伝聞の一言、はたまた、顔文字が添えられていることです。


そして、興味深いことに、いずれの投稿にも、オリジナルの記事のリンクが張られていませんでした。つまり、「玉城デニー氏、出馬表明先送り。・・そうなんだ。」という投稿が気になったしても、各投稿にはリンクが張られていないので、その文言で検索でもしない限り、オリジナルの産経ニュースにはたどりつくことができないのです。


「産経ニュースの記事を拡散したい!デニーさんが参加見送りであることを拡散したい!」と思っているのであれば、おそらくリンクを張るはずです。少なくとも、選挙対策アカウントの運営を自分がしていたら、そうします(笑)


コピペはするけれど、拡散する意欲のないアカウントが複数。


ますます謎めいてきました・・・。


ずっとモヤモヤしていたのですが、先ほどの僕のツイートに「それはアフィリエイトなのではないか」、要するに、広告収入のためのアカウントなのではないか、というコメントを書いてくださった方がいました。

















































なるほど!




人目につきそうな見出しを大量に投稿→別のサイトへ誘導→そこで商品・サービスの広告を閲覧させ購入させる→購入のルートをつくった対価としていくらかを企業から受け取る


上記のような広告収入の流れのなかに、謎のコピペ・アカウントたちがある可能性はたしかにありそうです。


投稿内容がバラバラである理由も、いろんな人の関心をむけさせるために、バラバラの話題を「詰め合わせ」にする必要があるから、ということで説明可能かもしれません。


しかし、なぜ1つではなく複数のアカウントが必要なのでしょうか。


いっぱい稼ぐために?


全然詳しくないので「アフィリエイトはこうやって稼ぐ」系のサイトをいくつか流し読みしたところ、ぼんやり見えてきたことがあります。


広告収入を得るための投稿は、要するに「売りつける」投稿がメインになります。なので、「こんなんいらんわ」と多くのユーザーの反感を買うと、立て続けにアカウントをブロックされ、しばしばアカウントが凍結(停止)されるリスクがあるそうです。


凍結されてしまうと広告収入を得るルートを失ってしまいますので、そのリスクを下げるために、①わざとらしい言葉ではなく、人情味のある言葉をつける、②エース・アカウント(広告収入用のメインのアカウント)を守るために、広告収入に無関係な内容で投稿し続けるサブ・アカウントを複数作成し、時折エース・アカウントの内容をサブにリツイートさせるなどして投稿を「まぜる」、というテクニックがあるようです。


僕が発見した謎の複数アカウントたちが、わざとらしく商品・サービスへのリンクを貼らなかったり、ニュースサイトへのリンクを張らない理由もココにあるのかもしれません。


アフィリエイトに詳しい方に、このあたりの実情を教えていただきたいところですが(笑)、ともかく、謎のコピペ・アカウントはアフィリエイトである可能性がなくはない、とはいえそうです。


では、「謎のコピペ・アカウントはアフィリエイトの一環」仮説が正しいと、いったん仮定してみましょう。


だとすると、投稿者にとっては「玉城デニー氏、出馬表明先送り。・・そうなんだ」という投稿は、あくまでも金銭的利益・集客を目的にした投稿にすぎず、投稿にそれほど思い入れがない可能性があります。言い換えれば、りゅうちぇるのタトゥーやサッカー選手の話題、昭和天皇の戦争責任も、すべては集客のための「人目を引きそうなネタ」でしかないので、全て同じ程度の価値しか投稿者にはありません。


しかし、実際には、産経ニュースの記事および謎のコピペ・アカウントの投稿の翌日に、玉城デニーさんは出馬を表明することになりました。


「人目を引きそうなネタ」の内容自体がぐわっと崩れる瞬間がたった1日で現れたわけです。


「出馬先送りを拡散したい!」と思い、それをツイートされていた方はたった1日で赤っ恥をかくことになりました。


しかし、おそらく謎のコピペ・アカウントたちを運営している人にとっては、それらは「集客用のネタ」でしかなかったので、特に痛くもかゆくもないのだと思います。


もし、見出しのタイトルがよりネガティブな印象をデニーさんに与えるものだったとしたら、どうでしょうか。「集客用のネタ」としてうまいこと機能すればいい、と考えている運営者にとっては、仮にそれが事実に基づかない「ネタ」であったとしても、おそらく痛くもかゆくもありません。


しかし、その人が痛くもかゆくもなかったとしても、その「ネタ」を信じてデニーさんに心ない言葉を投げかける人々が多数現れたとしたら・・・。


運営者の動機が特定の思想(イデオロギー)によるものではなく、単純に金銭的な利益を生み出すためだったとしても、それらの投稿1つ1つが人々の行為を方向づけてしまい、やがて政治的な効果を生み出してしまう。そんなことも起こるかもしれません。


僕が見つけてしまった謎のコピぺ・アカウントたちは、いわゆる「フェイク・ニュース」や「ポスト・トゥルース」といわれる現象の、小さな「火種」のようなものだったのかもしれません。


ところで、使い古された表現ですが、政治とは、「対話の積み重ね」のはずです。

謎のコピペ・アカウントたちは政治的な効果をもつ可能性があります。


ですが、そもそも、「対話」しているのでしょうか。


「対話」できるのでしょうか。


むしろ、「対話」を横滑りさせながら、何かの政治的効果を生み出してしまわないでしょうか。


そもそも、ニュースサイトやそのTwitterアカウントにはおびただしい数があります。

それぞれのニュースサイトのTwitterアカウントは、さまざまな話題の投稿をし続けています。


その中の1つが「玉城デニー氏、出馬表明先送り」という投稿でした。


なぜ、玉城デニーさんに関する投稿がコピペの対象に選ばれなければならなかったのでしょうか。

いや、むしろ、無数に存在するほかの記事の見出しがコピペの対象にならなかったのは、なぜなのでしょうか。


ここには、明確な選択があります。何らかの基準があります。


たとえ、投稿者にとって、すべてが「集客用のネタ」という意味で同じ価値と重みしかなかったとしても、それでも、そこには基準と、選択という行為があります。


その結果として、やがて、何らかの政治的な効果が生み出される可能性すら、あります。

「何気ない」風の言葉や顔文字でパッケージングされた上で、ほかでもない、その記事の見出しが、何らかの基準に合致した結果、選ばれた。


しかし、「対話」の意志はない。


そう、ないのです。


全ては「集客用のネタ」にすぎないから。


個々の投稿に怒っても泣いてもわめいても、「対話の積み重ね」にはならない。

そもそも、対話が始まることを、はじめから避けていると言ってもいいでしょう。


政治は「対話の積み重ね」といわれます。

しかし、その「積み重ね」が、そもそも「対話を避ける投稿」によって、何重にも引き裂かれていたり、穴がつくられているのかもしれない


対話をする以前に、対話の土台をボロボロにしかねない誰かの「選択」がうごめいているのかもしれない。


ここで、ふと想像したことがあります。


「誰か」の、という風に書きましたが、もしかしたら。

閲覧数の多い記事の見出しをコピペ用に自動的に選択し、そのまま自動的に投稿する。そんな仕組みがもうあるのかもしれません。つまり、「誰か」がほったらかしておいても、例のコピペ・アカウントたちは無限に投稿を続けるのかもしれません。


「者」ではなく「物」の基準と選択。

その結果として、何らかの政治的な効果が生み出されてしまう可能性もあります。

それが、ある場所のアイデンティティを問いなおし、描きなおす歴史的な場面であったとしても。


しばしば、今回の沖縄知事選は「一騎打ち」であると形容されます。

たしかにそうなのかもしれません。


しかし、その一騎打ちが行われる舞台には、ところどころ、対話を目指さない誰か・何かが生み出した「裂け目」がぽっかりと空いている可能性も、なくはありません。


沖縄県知事選をめぐる言葉のうねりのなかで、誰か/何かが「裂け目」を生み出していないだろうか、その「裂け目」は、実は、ハーフや海外ルーツ、その身近な人々を振り回す仕組みのようなものと、どこかで連結しているのではないだろうか。


半歩からの対話を目指して、その名をつけたメディアにも、その「裂け目」のありかについて考える、何かしらの責任があるように思うのです。


みなさんは、「裂け目」について、どのように思われますか?



ケイン樹里安

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