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【コラム】私の知っているイタリア人(by 金村詩恩)

更新日:2018年7月8日





最近、とある在日のおじさんと飲んでいて、こんなことを言われた。


「実は俺、イタリア人なんだ!『ゴッド・ファーザー』も好きだし、喫茶店のナポリタンも大好きだ!」


この文章を読んで、頭の上に大きな「?」を浮かべた人たちが多いかもしれない。

お酒をしこたま飲みながらこの話を聞いていた私も頭の上に大きな「?」を浮かべた。

このおじさんのどこかイタリア人なのだろうか。

というか、ナポリにナポリタンはないし。


もちろん。こんな本音を年下の私が思っているわけがない。 きっとこのおじさんはイタリア人なのだろう。



 別の場所で在日のおばさんと一緒に飲む機会があった。そのとき、そのおばさんがこんなことを私に言った。


「私、ロココ調でネコ足の家具が好きなのよねぇ。きっとフランス人だからかしら。」


フランス人全員がロココ調を好んでいるわけないだろう。

第一、 ワインよりも胡坐かいてチャミスル呑んでいる方が似合ってるじゃん。


もちろん。そんな失礼なことを私は思っていない。

韓国人は年上を貴ぶのでそんなことを思った瞬間に儒教の精神に反する。


きっとこのおばさんはフランス人だ。

ところでイタリアやフランスには儒教があるのだろうか。

私が習った教科書には「主にキリスト教カトリックを信仰する人々が多い。」と書いてあったのだが・・・・・。

 私は済州島をルーツとする日本籍の在日コリアン3世だ。家庭の事情が複雑で日本人の血(嫌な表現)を4分の1受け継いでいる。いわば、日本人のクォーターでもある。


これは高校時代の話だ。


臆病だった私は自分が在日であることをカミングアウトできなかった。まだ「ヘイトスピーチ」という言葉が出てくる前だったが、ネット上には在日を差別するような言葉が書き込まれていて、在日だとバレてしまったらどうしようと思い悩んでいたころだった。


 ある日、私は休み時間に教室で友人たちと話していて、うっかり、「実は在日で日本人のクォーター」であることを喋ってしまった。そのとき、「あっ!いけねぇ!」と思ったが、その話を聞いていた友人たちは特別な反応をしなかったのでほっとした。


しかし、私の話をどこかで聞いていた誰かが「なんで金村くんって、彫りが深くないんだろう?」とボソッと言っていたのを耳にした。

こんなことを言った人に悪気は全くなかったと思う。

そうか。日本の人たちにとって、「クォーター」とはそんな存在なのか。

私はそのとき、はじめてステレオタイプに出会った。


日本の人たちがクォーターやハーフと言えば、「白人の血が入っていて、美人で、バイリンガルで・・・・・。」みたいなものを想像する。確かにテレビの世界で活躍している海外ルーツの子どもたちを見ているとそういう人たちばかりだが現実は違う。海外ルーツと一言で言っても、私みたいな日本語しかできない在日コリアンもいれば、黒人やフィリピン系の人たちだっている。


 しかし、そんなアジア・アフリカ系の血を受けついだ人たちに対しての目は「かっこいい」というまなざしではなくて、「可哀想」というまなざしになる。確かに在日が日本の中で様々な苦労をしてきたことは間違いない。だけれども、過剰に「可哀想」というまなざしを向けられても、「いや、違うから。」と言い返したくなってしまう。


 もしかしたら、「可哀想」というまなざし自体が「ハーフ」や「クォーター」という枠に入れてもらえない理由なのかもしれない。テレビに出ている「ハーフ」や「クォーター」たちはかっこよくて、そんな可哀想な境遇みたいなものを感じさせない。

 もちろん、すべての人がそうであるというわけではないが、何か私とは違うまた「別の存在」であるように感じてしまう。


日本の人たちにとって「ハーフ」や「クォーター」とは憧れている国の人たちにのみ目を向けるだけの都合のいい「お人形さん」なのだろうか。

そう考えていくと私と飲んだ在日のおじさんやおばさんが「イタリア人」だとか「フランス人」だとか言い始める理由がちょっと分かるような気がする。ちょっとでもいいから、自分自身のことを「可哀想」な人間ではなくて、自分が憧れる存在に見せようとしたかったのだと思う。良いか悪いかではなくて、そんな気持ちこそが日本の人たちが作った「ハーフ」や「クォーター」の枠にすら入れてくれない人たちの本音なのだろう。ましてや、別の形で日常生活の中で人種と向き合わなければいけない「マイノリティー」とされている立場だからこそ、ちょっとでもいいから愛されるお人形さんになりたいという気持ちが見えてくる。

 

私も明日から自分のことを「イタリア人」と言おうかしら。


パスタをよく食べるし、『ゴッド・ファーザー』を観るといつも泣くし、サッカーも大好きだ。


まぁ、そんなことを周りに言ったとしても、「彫りの深いかっこいい外人」になんかなれないんだけどね。



***



金村詩恩(かねむら・しおん) 1991年生まれ。埼玉県出身の日本籍の在日コリアン3世。現在も書きつづけているブログ『私のエッジから観ている風景』が2017年12月に書籍化され、ライターデビュー。現在、自身のブログである『私のエッジから観ている風景』と民団青年会の『あんにょんブログ』で「あんにょんBook」を連載中。




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